教育

生命倫理と法:医療の法哲学(高等司法研究科)

 現代の生命科学の加速度的な進歩は、次々と新しい倫理問題を提起してきており、それへの法的応答に対する社会的要請が極めて強くなってきている。

 本講義では、生命科学技術とそれを応用する現代医療をめぐるバイオエシックス上の諸問題を取り上げ、具体的な事例を題材に法規制のあり方を検討していく。

 基礎法学・隣接科目として本講義が提供されていることに鑑み、生命倫理の問題を実定法解釈の枠にとどまらず、法的規制をめぐる論争の背後にある理論(思想)対立にも着目するとともに、比較法文化・法制度的視角、法政策学や「法と経済学」的視点、さらには法哲学的観点からも分析する思考訓練を通して、今後の法曹により強く求められてくると思われる柔軟な思考能力(リーガル・マインド)を養成することを主なねらいとする。

【プロローグ】生命倫理(Bioethics)と臨床倫理(Clinical Ethics)と法学の学問的使命

第1講
授業の進め方と成績評価の説明、生命倫理と法の役割:自己決定制約4原理と医療倫理4原則

 

【第一部】医療情報のプライバシー・遺伝子医療・遺伝子差別:インフォームド・コンセントとパターナリズム

第2講
インフォームド・コンセントとパターナリズム(癌不告知と輸血拒否の裁判)
第3講
遺伝情報の情報開示:遺伝情報の特殊性と「知る権利」と「知らないでいる」権利
第4講
遺伝情報のプライバシーと雇用や保険契約における遺伝子差別
第5講
遺伝子増強(エンハンスメント)及び脳神経科学とニューロ・エシックス

 

【第二部】生殖補助医療をめぐる生命倫理上の諸問題:法的規制と指針(ガイドライン)

第6講
遺伝子検査と優生思想:着床前遺伝子診断と胚選別、出生前診断と選択的中絶(産まない権利?)
第7講
体外受精・人工授精と出自を知る権利・死後生殖と親子関係・卵子売買(産む権利?)
第8講
代理出産(懐胎)と親子関係(子どもの法的地位)

 

【第三部】尊厳死・安楽死と治療拒否:死の自己決定・代理決定

第9講
重度障害新生児の選択的治療中止、赤ちゃんポスト(親の負担と新生児の利益保護)
第10講
消極的安楽死(延命治療停止と尊厳死)(死の自己決定権とパターナリズム1)
第11講
積極的安楽死・医師の自殺幇助(死の自己決定権とパターナリズム2)

 

【第四部】医療資源配分の公平性と医療へのアクセスの不平等性

第12講
臓器移植:生き延びる権利と臓器売買の闇市場問題
第13講
再生医療(ES細胞・iPS細胞):医学研究と倫理委員会
第14講
医療へのアクセスの平等性:薬の治験・先端医療の承認と混合診療

 

【第五部】医事紛争

第15講
薬害訴訟と法的救済、全体の総括とレポート試験の課題提示と説明及び質疑応答